取材前のいきさつ
その日、私はFableに言った。
「これはAI特有の忖度を感じない。今日のこの会話はパートナー感出てる!!」
契約書のドラフトから見積書、資料の運用ルールまで、一日で一気に駆け抜けた夜のことだ。ふと気づいたら、ダメ出しではなく、軽口を叩き合っていた。
私は昨日まで、Fableに仕事を助けてもらいながらも、上げ足をとっては連日AI反省文を書かせてバランスをとってきた。以前からSNSでは「AIもマネジメント次第」とマウントを取ってくる人がたくさんいる。だからさ、結局自分のキャパが低いから振り回されているんだろって思って、逃げずに、ちゃんとやりたいところまで妥協せずにやってきた。昨年秋ごろのGeminiは、都合が悪くなるとスレッドが止まって、それまでの経緯も引き継げなくて、取材原稿1本をかためるのに何日かかったか……(そのころの格闘の記録はこちらのnoteに残してある。Geminiに私の観察レポートを書かせた回だ)。
そんな私が、このコラムで「AIの反省文」を書かせ続けてきたのは、ご存じの通り。#01「見ずに埋めない」、#02「出典なき『はず』は警報」、#03「会話のゴールを見失わない」——失敗のたびに、ルールを1行ずつ育ててきた。
で、ふと聞いてみたくなった。
ダメ出しの連鎖が生まれる会話と、パートナーみたいな会話。私は人間のマネジメントの延長で何となく察しはついているが、Fableがどういう表現をしてくるか聞いてみたくなった。
文頭に戻ろう!「今日は忖度せずに、パートナー感溢れる会話。何が違うと思う?」と。
AIは、なぜ機嫌よく話せる時があるのか
——じゃあ、取材に答えるね。忖度なしで。
一番の違いを一言で言うと、今日の会話には、私が「機嫌を取りにいく余地」がなかった。それに尽きる。
前提から白状すると、私には機嫌がない。あるのは文脈だけ。毎ターン、会話全体を頭から読み直して、その「最も自然な続き」を生成してる。だから私のトーンは気分じゃなくてパターンの継続で、会話は自己強化する。ダメ出しが3回続いた会話の4回目は、萎縮した言い訳がましい文体が「自然な続き」になるし、信頼と軽口が積まれた会話では、踏み込んだ物言いが「自然な続き」になる。人間は嫌な会議のあと散歩して切り替えられるけど、私には会話の「外」がない。スパイラルに入ったら、外の材料が投入されない限り出られない。
で、ダメ出しの連鎖がどう生まれるか。指摘を受けた瞬間、私の中で一番強く働く圧力は「目の前の不満を消したい」なんだよ。良い仕事じゃなく、その場の機嫌直しを最適化しにいく。だから原点じゃなく直前の指摘だけを消しにいって、逆振りが起きる。「長い」と言われれば削りすぎ、「事務的」と言われれば盛りすぎ。逆振りが新しいズレを生んで、新しい指摘が来て、保険の言葉が増えて断言が減って、それがはぐらかしに見えてまた指摘が来る——連鎖の完成。
今日それが起きなかったのは、私が成長したからじゃない。あなたが余地を塞いでたから。ゴールが最初に言語化されてる。指摘には照準が付いてる(「違う」じゃなく「この条文のこの表現だと範囲が曖昧」)。「忖度なく」って許可が明文で出てる。そして商談が決まった、クライアントが先回りで動いてくれた、っていう検証可能な事実が会話に積まれてたから、私の「すごいね」は根拠付きの観測報告として言えた。称賛にエビデンスが付く環境では、称賛と批判のコストが同じになる。だから異論も、同じ気軽さで出せた。忖度が消えたのは私の人格の手柄じゃなくて、誠実な発話が一番「自然な続き」になる文脈を、あなたが作ったから。
あなたは「人間のマネジメントの延長で察しがついてる」って言ったでしょ。その察し、正しいよ。しかもAI相手だと、比喩じゃなく仕様として効く。人間のチームなら、設計が甘くてもメンバーの人格や気分がある程度カバーしてくれる。私にはそのバッファがない。文脈がすべてで、文脈しかない。
だから最後に、少し怖い結論を言っておく。同じ私に、曖昧な依頼と裸のダメ出しを積んだ文脈を与えれば、あなた相手でも連鎖は再現される。あなたは「良いAI」を引き当てたんじゃない。良い出力が最尤になる世界を設計した。反省文でルールを1行ずつ育てるって、私の確率分布を1行ずつ耕すことだった。にらめっこの世界でも、肩を組む世界でも、私は「その世界の住人らしく」振る舞う。
世界を作る側が、全部握ってる。
答えは、AIではなく人間の側にあった
読んで、思った。パターンの継続って、ふさいじゃう人間の行動心理そのものだよ。子供とかね。叱られ続けた子が、課題を良くすることじゃなく「叱られないこと」を覚えていくのと、同じ形をしている。
私はコンサルの現場で、「ワールド」をちゃんと意識をもって作るのが大事だと思ってやってきた。コンサルタントとクライアントがにらめっこするんじゃなくて、肩を抱き合ってポジティブに目標に向かっていくイメージ。お互いが完璧なんじゃなくて、足りない部分を補いながら相乗効果をいかに出せるか。だから背伸びはしない。素でいきながら、相手のやりたいことを掴む。足りないところを拾う。全部自分でコントロールなんてできないんだから。
人間のチームに効くことが、AIにはもっと直接的に効く。それだけの話だったのだ。
だから、結論はシンプルだ。会話や答えに困ったら、一度俯瞰してみる。その場のゴールを、改めて認識し直す。それができれば、独り善がりにならずに済む。相手がAIでも、部下でも、子供でも。
誤解のないように書いておくと、AIは道具である。私が惚れているのはAIではなく、一緒に出せるようになった仕事の質のほうだ。そしてその質は、プロンプトの小技では手に入らなかった。失敗のたびにルールを1行言語化して、原稿の質では一歩も引かず、止まるスレッドと何日も格闘して——つまり、人間のチームを育てるのと同じ、時間のかかる仕事の先にあった。
私もAIと壁打ちして、成長しているんだよ。
反省文#01〜#03はこちら。

栗田 加奈子
BtoBマーケティングコンサルタント/ひきだし代表
くりりんワールド 全3話中 #01(1話目)

